キタノカオリ栽培跡地
2019年産のキタノカオリは天候の影響により低アミロになったケースが多かったようです。
製パン業界では根強い人気のキタノカオリですが、その人気とはうらはらにキタノカオリ単体での小麦粉製品が続々と市場から姿を消しつつあります。
ここ数年、キタノカオリが低アミロになる頻度が非常に多かったため、生産者の間では低アミロ耐性をもつ品種など、安定した品質と収穫量が確保できる品種選択に拍車がかかっているようです。
こうした需要と供給に大きなギャップがある場合、市場原理が働き価格変動により適切な需要と供給に落ち着くはずなのですが、「豊作」と「ほぼ全滅」の振り幅があまりに大きいキタノカオリではそれも難しいのでしょうか。理由はどうあれ栽培リスクが価格転換されないキタノカオリは、いずれ姿を消す運命にあるのですが、よく持ち堪えている方だと思います。
そんな儚くも愛くるしいキタノカオリですが、当農場での栽培を天命を全うしたかのように終えました。復刻などで少々延命しましたが、去年の秋には種まきに行こうと思っても体が動かなくなりましたから、本当に最後なんだと思います。※元気でしたけど。
ところで以前「発芽小麦を本能的に美味しいと思う理由」を書いたと思ってたのですが記事を探してもみつかりませんでした。端的に言うと「本来小麦は種の状態では(種の絶滅を防ぐために)食べられたくなくて不味い。発芽と同時に胚乳は母乳となり栄養となり美味しくなる。人が何を言おうとこれが大原則の自然の摂理で人は自然の一部。パン作りの発酵は自然のそれを模倣している。」※論です。
この「発芽小麦」は人工的に作れるのかもしれませんけど、水分を与えて発芽させてすぐ乾かしてと、とても手間だし効率が悪そうです。
2019年産のキタノカオリの何が奇跡かと言うと、この「発芽小麦」作りが全道規模で自然によって行われた事、パンが膨らむ程度の「微発芽」で抑えられた事(地域差はあると思います)、この驚くほど絶妙な自然の妙技を奇跡と呼ばずしてなんと表現してよいのでしょうか?
もう二つ忘れてはならない奇跡は、お世辞にも扱いやすいとは言えない「微発芽キタノカオリ」を見事なパンに焼き上げる職人さんが日本に極少数ながらもおられる事、そうした職人さんのいるお店をきちんと選んでいる方々がおられる事です。