誕生の地
この約80a(8反)の小さな畑ですべては始まりました。
約20年前にオーガニックへの試行がこの畑から始まり、2013年には新しい小麦への試行がまたこの畑で始まりました。
上の写真は2013年当時のもので、小麦種まき前に畑を休ませる休閑(きゅうかん)を行っています。
カムホに纏わる不思議なできごと
通常休閑時には効率的に地力を回復するため、人為的に緑肥の種をまきますので、景観もある程度人工的なものとなります。
この時は忙しくて手がまわらなかったこともあり、「この狭い畑くらいいいや」と緑肥の種まきを手抜き放置したところ・・・?
結果、自然に野良生えしたオオイヌタデが畑一面に優勢となり、その花とつぼみのピンクがびっしり揃った光景は、今までに見たことのない壮観で綺麗なものでした。
今でもこの光景が忘れられず他の畑で再現を試みていますが、なかなか上手くいきません。
こうしたカムホに纏わる不思議なできごとは、たまたま偶然なんでしょうけど、このあと度々おこるようになります。
小麦苦難の年
2013年は「きたほなみ」、「ゆめちから」、「キタノカオリ」の3品種(のちのキタカムホの親種)を収穫予定でしたが、あいにくの天候により全品種で穂発芽してしまいました。
また、当時登場まもなかった「ゆめちから」には他の小麦にはないノゲがあり目立つため、「1穂でも他品種が混ざってはいけないので畑を歩き確認し手で抜くように」と広い農場では到底不可能とも思える指導があったことや、自家採取を繰り返し行ってきた「キタノカオリ」に他の品種がちらほら見えていたこともあり、多品種栽培に嫌気がさしていました。
難題なコンタミ(不純物)指導と全品種の穂発芽により、この年の種まきは穂発芽耐性など栽培適正が一番優れている「きたほなみ」のみの作付けとなり、パン用強力品種は全て姿を消しました。
偶然と思いつきの産物
順調に種まき作業の進んだ「きたほなみ」でしたが、最後の80aを残して種が切れてしまいました。
綺麗に整地して種まきを待つばかりの畑があるのにどうしたものか、としばし考えます。オーガニックだけに農薬噴霧済みの販売種子は使いたくありません。
ふと倉庫に眠る、少量ずつ小麦の入った袋が頭をよぎりました。過去に種を蒔いた時の埃っぽい余りや、穂発芽して自家用に置いておいたもの、俗にいう屑小麦たちです。人気のあったキタノカオリも数袋、過去のものとしてそこにありました。
パン用小麦が全て無くなってスッキリした反面、少し寂しく感じたこともあり、「8反くらいなら」とそれらを思い出として、自家パン用として遊びで混ぜて蒔くことにしました。
初代キタカムホ
「キタノカオリは手にくっついて使いにくい」とせっかく頑張ったオーガニックのキタノカオリを一向にパンにしてくれないので、じゃあ手にくっつかないように、ホームベーカリーでも膨らむように、無難になるよう心がけました。
「キタノカオリ1/3」、「ゆめちから1/3」、「きたほなみ1/3」の混蒔
「きたほなみ」と「ゆめちから」のブレンドは輸入麦に近い癖のない味や扱いやすさとして知られていましたので、「キタノカオリ」の風味を生かしつつ扱いやすくが、この混蒔割合の理由です。
キタカムホ2014(数字は収穫年)は想像以上に満足できるものとなりました。
呼び名の由来は、「キタ」は北海道のキタ、「カ・ム・ホ」はそれぞれ「キタノカオリ」、「夢(ム)ちから」、「きたホなみ」の当て字で、順序は「カムイ」をもじっています。
なんとなくの理由から「キタカムホ」はアダムとして次年に種継ぎをせず、1年間倉庫で眠ることになります。
2代目カムホ
初代の成功に気をよくし、2代目は一転して風味重視となりました。
「キタノカオリ50%」、「ホクシン25%」、「ゆめちから25%」の混蒔
伝説となった「オーガニックキタノカオリT110」からヒントを得ていて、あまり詳しくは書けませんが「ホクシン」が鍵になっています。
初代は一切使わず、倉庫にまだ残っていた思い出たちから再構築し、これで倉庫はちょうど空っぽになりました。この為に何年も前から残っていたのかな?と思うほどピッタリで倉庫が綺麗に片付いたのは少し不思議な思い出です。
カムホ2015は、カムホ歴代で一番風味が濃いものとなりそうです。
美味しく個性が強い2代目はなんとなく女性的ですね、そしてイブとして次に継がれることになります。
※「キタカムホ」は呼び名が長い気がしたので、ここで「カムホ」に改名しました。
苦難の3代目カムホ
この後、未曾有の悪天候を体験することとなった3代目カムホ。
「初代キタカムホ」と「2代目カムホ」の混蒔+α
計算すると各品種の割合はわかりますけど、もうしなくてもいいかなと思います。
小麦の異品種天然交配率は3%~20%と唱える人によって差がありますが、少なからず起こることは間違いありません。
初代、2代目にそれぞれ、内在的に新品種が誕生していることになり、3代目以降種を継げば継ぐほどその割合は高まる計算になります。
カムホ2016のパンの写真-追加予定
カムホ2016は膨らみや風味うんぬんではなく、心に残るものになりました。
単なる混蒔小麦と言ってしまえばそれまでですが、カムホを通じた出来事はきっと一生の宝になると思います。
1年に1度しか収穫がないのに、進展が思った以上に早くついていけない感がありますが、4代目以降はもっと進展が早まる気配が見えています。
4代目カムホ、新境地へ
日本でもようやくブレイクの兆しが見える、古代小麦(スペルト)が仲間に加わりました。
「3代目カムホ2016」+「古代小麦5%」+αの混蒔
カムホ2016は穂発芽によりキタノカオリの割合が減っていますので、若干キタノカオリを加え手直ししてますけど、今回のコンセプトはアレルギーの発症しにくい品種の導入です。
その他にも、風味高い小麦を好まれる、数人の職人さんの意見を取り入れ+αで風味を強化しています。
…続きは収穫後になります。
「カムホ」の意味
初代、2代目は単なる混蒔小麦で呼び名も混蒔小麦が相応しいのですが、それでは味気ないので「カ・ム・ホ」としました。親となる品種名から1文字ずつとって並べたものにすぎません。
3代目は少なからず異品種天然交配している初代、2代目のハーフなので単なる混蒔小麦とは趣きが異なり「・」が1つ取れて「カム・ホ」となりました。カムイ(神・自然)が交配した穂(ホ、小麦)という意味です。
当初の予定では、この3代目がある程度のオリジナル性をもつカムホの初代に当たるのですが、ややこしくなるので3代目としています。
まだまだ先の話になりますが、いつの日か何代目かわからなくなった頃にもう1つ「・」がとれて、すっと「カムホ」と呼ばれる日がくるのかな、なんて思うこともありますけど…。
カムホという小麦はどこにもない
カムホの根底にあるコンセプトは多品種混蒔、小麦版ノアの方舟で、今後も種として入手できうる限り品種を増やしていく方針です。
品種が増えるほど年月がたつほど、天然交配による新品種の出現や割合も増えることになり、さらなる多品種へと自ら成長していくのですが…。
収穫した小麦の粒を手のひらに乗せると、そこには幾つもの色と形の粒があります。過去と未来の品種たち、でも、どの粒がカムホなのか探しても見つかりません。
もし、その中から選抜され、新しい品種として増えていく小麦があったとしても、それはきっと別の新しい名前で呼ばれることになるでしょう。
カムホとの向き合いかた
ほんの偶然から始まり不思議な縁で続いているだけなので、いつほんの僅かな出来事でなくなってしまってもおかしくありません。
そんな一期一会のカムホだから、心の良心に従って向き合っていこうと考えています。そうしないといつか消えてなくなりそうな気がしますので。
カムホをお譲りする時には、「しがらみなく使う使わないは自由にお願いします」と声をかけています。使いたい時に使い、使わない場合でもなんの遠慮もいりません。
種の配合を決めるときや、カムホに関わる出来事で悩んだときは、目を閉じて考えるのをやめ心に判断を委ねるようにしています。
使っていただける方にも、そうして心で向き合って貰えるとカムホは喜ぶと思います。できればで構いませんので、どうぞ宜しくお願いいたします。
カムホがもたらした奇跡
みたいのがあったらいいですね。
・・・2016年現在ではここまでとなります。